テクノロジー法務の国際潮流

2025年01月10日公開

第8回 リーガルテック

リーガルテック業界を横断するアクティブな業界団体「AIリーガルテック協会(AILTA)」の誕生

 2025年1月10日に、AIリーガルテック協会(AILTA)が誕生した。これまで、契約審査分野や電子契約分野等、個別の領域ではリーガルテック系のアクティブな業界団体が存在した。しかし、リーガルテック業界を横断する、アクティブなことが外部から確認可能な業界団体は、管見の限り見当たらなかった。その中で、AIリーガルテック協会(AILTA)が、プロダクトの種類を問わず、リーガルテック全般を包含する業界団体として誕生した。
 リーガルテックは、元々はそれぞれの企業が個別プロダクトを磨き上げるという傾向にあった。そこで、同じようなプロダクトを提供する企業同士がお互いを意識しながら良い意味の競争を働かせたり、例えば契約レビューに関する団体のように、共同してより良い業界を目指す等協力したりしていた。
 もっとも、2023年後半から、各社がプラットフォームを進めるようになった。つまり、自社で新規開発したり、他社と提携したりして、一つのプラットフォーム上で様々な機能を提供するようになった。それは、ユーザの立場からみて、決して悪いことではないだろう。つまり、複数のシステムを利用すれば、システム間でダウンロードやアップロードが発生するところ、一つのクラウド上で業務完結すれば、一つの情報を一気通貫で利用できるようになる。
 とはいえ、その意味は例えば契約レビューなら契約レビューのみ、リサーチならリサーチのみを考えれば良い時代が終わるということである。その結果、複数の種類のリーガルテックを横断して各種事業者が協力しあうことが重要となった。
 前途のとおり、現時点で筆者が知る限り、リーガルテックの全ての領域をカバーする、アクティブな業界団体は存在しない。そこで、今回、旧AI・契約レビューテクノロジー協会(ACORTA)を発展的に解消させて、AIリーガルテック協会(AILTA)が誕生した。既に複数社の新規入会が決まっており、3桁以上とも言われるリーガルテックのプレイヤーが続々集結することが期待される。

Ⅱ  リーガルテックとAIに関する原則

  AIリーガルテック協会は、誕生と共に、「リーガルテックとAIに関する原則」を公表した。元々、旧AI・契約レビューテクノロジー協会時代から、どのよう自主的な取り決めが必要かを検討することが重要と考え、「策定委員会」を設立して、小塚教授や宍戸教授をはじめとする委員の皆様にご議論頂いた。
 その結果として、ユーザに取って有益で、かつ、有用なリーガルテックであるためには、以下の4原則が重要と認識され、本日公表された。

 原則 1:コンプライアンス原則
 原則 2:Lawyer-in-the-loop原則
 原則 3:データ保護原則
 原則 4:サービス理解増進原則

 リーガルテックに関する法令が遵守され、弁護士等が適切に関与し、データが保護されることで、安心して利用できる安全なリーガルテックとなる。しかし、いくら良いシステムであってもその利用方法を正確に理解しなければ宝の持ち腐れである。そこで、ベンダとして、ユーザにその理解を深めてもらうことが必要である。
 これらの内容は「当たり前」と思われるかもしれない。しかし、すべての事業者がこのような「当たり前」を着実に履行することは、リーガルテック業界の信頼性や、ユーザとしての安心という意味で重要な意味があると考える。少なくとも協会加盟企業は全てこの原則の遵守を確約しているので、ユーザの皆様にとって、そのリーガルテックを提供するベンダが協会に加盟してこの原則の遵守を謳っているかが、リーガルテック選択の一つの判断基準となるだろう。

Ⅲ リーガルテック業界発展への展望

 将来的には、リーガルテックはますます発展していくだろう。筆者は『ChatGPTと法律実務』(弘文堂、2023年)を執筆し、2020年代のリーガルテックの短期的発展と、2040年頃のリーガルテックの長期的発展を描き出した。同書の出版から約1年半を経て、概ね予想は当たっている。とはいえ、領域によっては、予想よりも発展が早い分野もある。
 例えば、B2C企業がカスハラ対策として、カスタマーサポートのAI化を進めている。ここで、例えばこれまでの人間によるサポートの満足率が80%として、AIが人間の満足率に至らなければAIを使わないという方針であれば、正直なところ、2025年にカスタマーサポートのAI化を実施することは到底不可能である。しかし、「たとえ満足度が大きく低下したとしても、何としてでもAIを導入する」という判断を行い、トラブルがあってもめげずに、そのトラブルに学んで改善を続ける。このような努力を継続すれば、いつか必ずAIの満足度が人間とほぼ同程度まで至るだろう(例えば、これまではオペレーターが少なく、待たせられることで満足度が下がっていたということなら、AIが24時間365日サポートすることで、むしろ満足度が上がるという状況も想定可能である。)。そして、このような決然としたAI化の意思決定をする企業が徐々に増加していることからは、リアルデータから学んでAIの品質がますます高まるという好循環が起こり、予想より迅速にAI技術が発展することも十分あり得る。
 もちろん、このようなカスタマーサポートのAI化の例がそのままリーガルテックに当てはまるものではない。むしろ、リーガルテックは、情報の正確性の確認等、個別具体的な事情を踏まえて人間の担当者が最終判断を行うことを前提としている。したがって、ユーザにおいては、まずはリーガルテックの出力結果を確認し、そのプロダクトの利用方法に従って、適切に利用することが重要である。とはいえ、AI技術全体の発展速度が予想より迅速なものとなるのであれば、例えば2040年に到来すると構想していた状況が2035年や、場合によっては2020年代後半に到来してもおかしくない。そのような心の準備を行うべきである。


松尾剛行

<筆者プロフィール>
松尾剛行(まつお・たかゆき)
桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士(第一東京弁護士会)・ニューヨーク州弁護士、法学博士、学習院大学特別客員教授、慶應義塾大学特任准教授、AIリーガルテック協会(旧AI・契約レビューテクノロジー協会)代表理事。