テクノロジー法務の国際潮流

2024年07月31日公開

第2回 アバター

Ⅰ はじめに

 メタバース(仮想空間)「ブーム」の時代は終わった1。しかし、それはメタバースやアバター2の問題を論じる必要がなくなったことを意味しない。2024年6月28日には、Apple Vision Proが日本でも発売された3。いわば、「投機」のために一時的にメタバースに近づいてきた人は去ったものの、むしろ本当の意味において、将来の新たなインフラとなるメタバースやそこで活躍するアバターについて関心が高い人が集まり、研究や実務が広がっている。
 ムーンショット研究開発目標1「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」においては、人々が物理空間におけるロボットやメタバース上のアバターであるサイバネティック・アバター(CA)を利用し、その身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張し、身体、空間や時間等の制約から解放される社会を目指す研究が行われている。ここでいうCA とは身代わりとしてのロボットや3D 映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するICT 技術やロボット技術を含む概念で、Society 5.0 時代のサイバー空間及びフィジカル空間において自由自在に活躍するものとされている4
 慶應義塾大学の新保史生教授が提唱する「アバター法」5の示唆を受けながら、上記ムーンショット研究開発における「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」という研究開発プロジェクトが始まっている6

1)株式会社クニエ「メタバースビジネス調査レポート」2023年5月(2023 年6 月28 日最終閲覧、以下同じ。)によれば、メタバースビジネスの取り組みの91.9%が事業化に失敗している。https://www.qunie.com/pdf/service/QUNIE_NewBiz_report_summary_20230523.pdf
2)アバターの1 類型であるVTuber については松尾剛行「プラットフォーム事業者によるアカウント凍結等に対する私法上の救済について」情報法制研究10号(2021 年)66 頁<https://www.jstage.jst.go.jp/article/alis/10/0/10_66/_pdf/-char/ja>において、筆者が代理人として関与した最初期のVTuber 裁判を取り上げている。
3)https://www.apple.com/jp/apple-vision-pro/
4) 内閣府「ムーンショット目標1―2050 年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現―」<https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub1.html>
5) 新保史生「サイバネティック・アバターの認証と制度的課題」日本ロボット学会誌41 巻1 号(2023)18-19 頁
6)国立研究開発法人 科学技術振興機構「ムーンショット型研究開発事業 目標1 研究開発プロジェクト アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現 プロジェクト紹介」https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal1/15_shimpo.html。なお、筆者も慶応義塾大学特任准教授としてこのプロジェクトに参加し、2024年3月まで1年以上に渡り、「サイバネティック・アバターの法律問題」月刊連載を継続してきた(松尾剛行「サイバネティックアバターをめぐる法律問題の鳥瞰(上) 〜人格権を中心に〜 「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載1回」World Trend Report2023年5月号<https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr409-20230427-keiomatsuo.html>)。現在も「サイバネティック・アバターの法律問題」季刊連載を継続している(松尾剛行「AI・ロボットとサイバネティック・アバターにおける新たな課題〜季刊連載第1回〜」World Trend Report2024年6月号<https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr422-20240530-keiomatsuo.html>)。

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松尾剛行

<筆者プロフィール>
松尾剛行(まつお・たかゆき)
桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士(第一東京弁護士会)・ニューヨーク州弁護士、法学博士、学習院大学特別客員教授、慶應義塾大学特任准教授、AI・契約レビューテクノロジー協会代表理事。